公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

わが子は今、何を一番求めているでしょうか?

鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

②今、わが子がお母さんに本当に求めているのは何だと思いますか?

「今、何がほしい?何がしたい?」とお母さんが聞けば、子どもからはすぐに、「おもちゃ、ゲーム、絵本、お菓子」といった答えや、「遊園地や旅行に連れていって」といった答えが返ってくるでしょう。
 しかし、子どもがお母さんに本当に求めているものは(子ども自身は気づいていないでしょうが)、それらの物や事ではなくて、じつはお母さんの愛情なのです。
 「お母さんは、そのことに気づいていましたか?」そのように訊ねると、「もちろん、わが子を愛していますよ。母親なのだから、それは当然でしょう」と答える人がほとんどだと思います。

 しかし、お母さんのその愛情は、子どもに本当に届いていますか?自分の願ったことをしてくれた時、自分のいうことを聞き分けてくれた時、あるいは可愛い仕草や表情を見せてくれた時、その時は可愛がってあげる、というように、条件つきの愛情の示し方になっていませんか?あるいは、子どもがほしがっているものを買い与えたり、家族で行楽に出かけたりすることで、愛情を示していると思い込んでいる、ということはありませんか?

 物を買い与えたり、行楽に連れて行ったりすることは、愛情の示し方の一つではありますが、愛情そのものではありません。愛情は目に見えるものではないからです。あなたのことを愛している、あなたのことを大事に思っているという、わが子を優しく温かく包む心の動き、これが愛情です。
 その目に見えないお母さんの愛情は、日々の生活の中で子どもにしっかり届いていますか?子どもは、「僕は(私は)お母さんに愛されている、大事に思われている」と確かに感じていますか?

 お母さんの愛情がしっかりと子どもに届いているなら、子どもはきっと元気いっぱい、意欲満々で、園での生活を存分に楽しめているはずです。ところが、私が見る限り、保育園でのびのびとした元気な姿を示し、はつらつとして遊ぶ子どもが近年、ずいぶんと減ってきているように見えます。それにはいろいろな要因が絡んでいるでしょうが、お母さんの愛情がしっかりと子どもに届いていないこともその要因の一つではないでしょうか。 

>③お母さんの気持ちは、今、わが子の心に向かっていますか?

わが子は今、何を一番求めているでしょうか?

鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

①連載を始めるにあたって

 今、保育をめぐっては難しい問題が山積しています。
 社会的には、待機児童の問題があるかと思えば保育士不足の問題があり、それでいて保育の質を確保したいというように、保育行政も難題を抱え込んでいます。

 また保育の現場では、あれも教えてください、これもさせてくださいと、子どもに教育をしてくれるように強く求め、それに応えてくれる園を「質の高い保育をしてくれる園」と考える保護者がいます。そうかと思えば、もっと子ども一人ひとりの気持ちをわかって保育をしてください、集団の一員とまとめてしまわずに、一人ひとりの子どもの思いを大事にして、ていねいに保育をしてくださいと、保育園に求める保護者もいます。この二つのタイプの保護者ニーズにどのように対応するかは、どの保育園にとっても難しい課題です。

 このように、保育をめぐる難しい状況がある中で、子どもにとってはどのような保育が「子どもの最善の利益」につながるのでしょうか。それを考える時、私には今、保護者の皆さんに届けたいメッセージがいくつかあります。それはまた裏返せば、保育者に届けたいメッセージでもあります。

 今、「保護者の皆さんに届けたいメッセージ」と書きましたが、この連載では、「保護者」という言葉を「お母さん」という言葉に置きかえてすすめていくことにします。届けたいメッセージにはどうしても呼びかけ調の文章が入ってきますが、その時「保護者」という言葉は、呼びかける相手としては抽象的に響いてしまうからです。もちろん、ここでの「お母さん」という言葉は、「お父さん」という言葉と置きかえてもらっても一向にかまいません。

 さて、これから何回かに分けてお母さんに伝える私のメッセージは、お母さんの気持ちが楽になる、お母さんの都合に合致する、というような、お母さんが喜ぶ中身には残念ながらなりそうにありません。しかし、どのように子育てをすれば、子どもが本当の意味で幸せになり、結果としてお母さんの幸せにつながるかを考える上では、きっと役に立つ内容になるだろうと信じています。

>②今、わが子がお母さんに本当に求めているのは何だと思いますか?

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