公益社団法人 全国私立保育連盟

防災・危機管理の重要性

はじめに

 近年、台風や豪雨等災害が予測される時に、平常保育で開園・受け入れるのか、それとも、休務(職員は出勤し待機するが、保育は実施しない)、休園(職員も危険なので出勤しない)にするのか、園長は判断を迫られることが増えました。
 私の保育園は京都市にありますが、台風などの際、公立学校は暴風警報が発令されると休校になるので、それに準じて保育園は休務にすることが30年以上前から市のルールになっています。ところが、全国ではそのようなルールが存在しない自治体も多いのです。今まで台風が頻繁に通過することがなかった地域など、被害の経験がなかったために想定されないのではないでしょうか。
 ところが、阪神・淡路大震災以降、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震など、被害の大きな地震が立ち続けに発生し、南海トラフ地震は明日に起きてもおかしくないといわれています。また、世界的な気候変動や温暖化の影響なのか、台風が観測史上初めてのコースを辿り、東北や北海道で大きな被害が生じました。さらに、豪雨と呼ばれる、50年に一度、100年に一度の大雨が全国各地で何度も降り、大きな被害をもたらしています。
 園の立地条件にもよりますが、土砂災害・水害のマニュアルの整備も必須となりました。全国の保育施設においても、想定外の状況に対応できる体制、マニュアルの整備や園内研修など、子どもや職員の命を守る対策の実施が求められています。
 本連盟としましても、今まで被災地の復興支援や、被災地の状況を広報誌「保育通信」やHPあおむし通信等を通じて発信してきました。この度、それに加えて、保育施設の防災・危機管理力を高め、子どもたちの命を守る必要性を強く感じ、防災・危機管理に関する情報を提供することにしました。
 また、このページを作成するにあたっては、「保育通信」で保育施設での食育を中心に、健康、食文化、災害対応など食に関わる幅広い内容をわかりやすくご執筆いただいている上越教育大学大学院教授の野口孝則先生に、全面的にご協力いただきながら進めていくことができることを大変嬉しく思っています。
 このページを活用していただき、各保育施設における防災・危機管理に関する園内研修の実施、園内防災マニュアルや災害時食事提供マニュアルの作成することにより、保育施設の防災・危機管理力を高めていただければ幸いです。ぜひ、ご活用ください。

公益社団法人 全国私立保育連盟広報部
部長 村井祐昭
このページの一番上へ
保育施設における防災や危機管理について考える際の参考資料として

 日頃より「保育通信」で、連載「保育園での食育実践講座─体と心の健康・地域の食文化・災害時の対応」を担当させていただいております、上越教育大学大学院の野口孝則です。今回、全私保連広報部の先生方と一緒に「保育施設における防災・危機管理」に関する情報の収集と発信の場をつくることを、大変光栄に思います。
 私がいつも「保育通信」の連載を執筆している中で心がけていますのは、情報の「新しさ」と「正しさ」です。そのためには、多くの情報を収集・分析したうえで執筆にあたっているのですが、特にこの「防災・危機管理」という分野においては、日本国内各地で新たな災害の発生もあり、それらの災害に対応するように国や自治体等における防災ガイドライン等の情報も更新され続けている現状で、「新しい」情報が多く発信されています。
 また、行政主導のガイドラインの作成マニュアルのみならず、近年では、被災自治体や保育現場のご協力のもとに大学や研究機関の研究者が、保育施設等における災害時の食事対応についてデータを解析した研究発表(学会や論文)も多くなってきたことによって、より「正しい」情報が蓄積されているところです。それらの情報を収集し、このページで紹介していきたいと思います。
 以前、「保育通信」でも述べさせていただきましたが、保育施設における防災・危機管理の考え方の基本として、「防災マニュアル」を作成することが目的ではありません(*注を参照)。マニュアルは活用されることが大切です。しかし、「防災マニュアル」を使うのは実際に災害が起きた時ですので、災害が起きるまでは「防災マニュアル」を真剣に見る職員は少ないのが現実かもしれません。一方で、被災園の先生から、「防災マニュアルを見ている余裕がなかった」「防災マニュアルが水に浸かって読めなかった」などのお声も伺っています。それでは、どのような対策が可能でしょうか。
 まず1つ目は、作成されている「防災マニュアル」を多くの職員が読み、理解したうえで、日々の観察・点検・訓練などを積み重ね、その中で「改善点」が見出された場合にはすぐに情報を更新し続けることが大切です。
 そして2つ目は、「防災マニュアル」が必要になる時には、誰もがすぐに見て参照することができる環境を整備すること(すべての部屋にマニュアルを置くこと等)が必要です。
 今はまだ情報量が少ないページではありますが、今後、私が厳選した防災や危機管理に関する「新しい情報」や「正しい情報」を、ほぼ毎月のペースで発信していく予定です。各保育施設で、防災マニュアル等の更新や、日頃の「防災力(知識・意識・行動)」を高めるトレーニングの一環として、このページをご活用いただけましたら幸いです。
 「食は命の源」であり、美味しい食事は心を癒したり、体を元気にさせてくれるものです。災害時には、「いつでも何かを食べることができる日常生活」が奪われ、「食べたいものを食べることができない非日常の生活」を強いられます。また、被災地で開設される多くの避難所では、味や内容が大人向けの災害対応食が多く提供されているという現実もあります。「安定」「安全」「安心」が保障されない環境は、大人同様に子どもたちも苦しくて辛い状況です。
 そのような災害時でも、保育施設だからこそ、子どもたちが美味しく食べることができる食事を日頃から準備しておき、滞りなく子どもたちへ安全な食事提供を実施して、適切な栄養補給の機会をつくることで、子どもたちや保護者の不安な気持ちを取り除き、少しずつでも体や心を元気にしてあげたいと切に思っています。

*注 現状において、保育施設における「防災マニュアル」や「災害時の食事提供マニュアル」が作成されていない園におかれては、もちろん大至急、それらのマニュアルを作成することが最初の目的になります。

上越教育大学大学院教授 野口孝則
このページの一番上へ