公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第3回①

これまでの発達の見方は、子どもを幸せにしましたか?

鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

①これまでの発達の見方とわが子の発達を急ぐ親心

 「発達」の考えは、「誕生後、できることが年齢とともに増加し、20歳前後で人間の能力として完成する」という考えの上に組み立てられています。この考えに基づいて、それぞれの年齢ごとに「できること」の平均値が「発達の目安」として示されることになります。この知識が育児書などに示されるようになって以来、お母さん方の子どもの見方は、常にわが子の発達は「目安」に届いているか、届いていれば安心、届いていなければ不安というように、「目安」に沿ってわが子の「できる、できない」を確認する見方になってきました。

 このことが、「早く○○ができるように」と子どもの育ちを急ぐ風潮の一因となってきたように見えます。

 確かに、ほぼ同月齢や同年齢のよその子どもが、わが子よりもできることが多かったり、利発だったりすると、お母さん方は心配になりますね。特に言葉の発達の心配は、多くの親が取りつかれるものです。そして、それまで言葉らしい言葉が聞かれなかったのに、ある日急に耳に聴き取れる言葉が聞こえてくると、嬉しくなり、「大丈夫だったのだ」と安心し、ならばもっと先を急いでという気持ちになります。これは、昔から「這えば立て、立てば歩め、の親心」といわれたとおり、ごく自然な親心のようにも見えます。

 しかし、目安との比較、よその子との比較によって、それに一喜一憂する近年のお母さん方の姿は、一昔前には見られないほど、熱のこもったものになってきています。こうして、どうすれば早く言葉を話せるようになるのか、どうすれば知的な能力を早く身につけさせられるかと考えるようになって、様々な情報を追い求め、早い発達を期待する気持ちが大きく膨らんで、子どもの育ちを後ろから押すかたちの子育てに傾くようになってきたのです。

 このお母さんの期待と不安は、さらに「もう3歳では遅い!」という幼児教育産業の脅し文句にあおられ、そして「あそこでも○○幼児塾に行かせている」「あそこの園では○○を特別に訓練してくれるそうだ」という情報に乗せられて、いつのまにか幼児教育教材を買い入れ、あれをさせる、これをさせるというように、発達を急がせる動きに引き寄せられてしまうようになったのでしょう。

 >②これまでの発達の見方は、子どもも親も不幸にする面がある