公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第19回②

「まとめに代えて(2)触れられなかった大きな問題」
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)


保護者の保育者への不満、保育者の保護者への不満

 本誌12月号のコラム「保育者・子どもからもらったことば」に、かつてある園の保護者の一人だった方から過去を振り返って次のような短い記事が寄せられました。要約すると、「息子を保育園に通わせ、母親として子育てに悩みながら日々をすごしていた頃、面談時に『お母さんは甘やかしすぎている』と保育者にいわれ、ショックで落ち込んだ。あの当時は子育てに精いっぱいで、その時保育者に『お母さん頑張っているね』と一言、大変さを受けとめてほしかった。そうすれば、あれほど落ち込まなくてすんだと思う」という内容です。

 確かに、子育ての悩みのピークにいた時に、保育者からこのようにいわれたお母さんはショックだったことでしょう。そして、その場面で保育者がもう少しお母さんの気持ちに寄り添うことができれば、そのような言葉をぶつけることはなかったでしょうし、したがって、このお母さんがそれほど落ち込まなくて済んだかもしれません。

 ここには保護者側から見た保育者の対応への不満が示されていますが、これに類する保育者への不満は、表面化こそしないものの、保護者側にかなりあるようです。

 しかし、この例の場合、子育ての悩みを抱えていたお母さんが落ち込んでしまったのは、保育者が掛けた配慮のない言葉によって引き起こされたと単純に考えてしまってよいのでしょうか。例えば、妻の子育ての大変さを夫はわかっていたのか、職場での子育て支援のあり方はどうだったのか、子育ての悩みを話し合ったり、憂うさを晴らしたりする友だち関係を十分に持っていたのか等々。このお母さんの子育ての落ち込みは、様々な次元や要因から成り立っていたはずです。それなのに、それを一人の保育者の対応の問題に還元してしまっていないでしょうか。

 他方、保育者側に目を向けると、保育者側もまた日々の保育やその他の業務の中で、もうこれ以上は無理といわなければならないほど、疲弊し、精いっぱいになっている現状が見えてきます。保育者に子育て支援が求められている昨今ですが、保育者の多くも働く人としては保護者と一緒で、その仕事や子育ての大変さを保育者もまたこのお母さんと同じように誰かにわかってほしいし、認めてほしい、支えてほしいと思っている現実があります。その精いっぱいの思いが、子どもの負の振る舞いを前に、思わず「お母さんは甘やかしすぎている」といわせてしまったということはないでしょうか。保護者との連絡がなかなかとれない、熱があっても連れてくる、子どもの乱暴する様子の裏に家庭の子育ての問題がありそうだ、等々、保育者が保護者に対して不満を抱えていることもまた確かなのです。

 その不満と、先のお母さんの保育者への不満とは無関係ではありません。

>③双方の人格と人格の絡み合いが関係性の中身