公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第19回①

「まとめに代えて(2)触れられなかった大きな問題」
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)


保護者と保育者の関係性の問題

 この連載で取りあげなければと思いながら取りあげられなかったのは、保護者と保育者の関係性の問題です。今、「家庭との連携」の必要についてはいろいろな場面で言及されています。それは保護者の側から見ても、保育者の側から見ても必要だと思われることです。

 実際、0歳児の保育では、家庭での授乳の時間、授乳の量、睡眠時間、体調などの情報を、朝の登園の場面で家庭から園に向けて伝える必要があります。それが0歳児保育を進めるうえで大事な意味を持っているからです。また他の年齢でも、体調や病気など健康面の情報を家庭から園に向けて伝える必要があります。

 それとは逆に、行事や園外保育などの予定を含め、明日持ってくるものや、持って帰ってもらうもの、園だよりやクラスだより、行事などで保育者が撮った子どものスナップ写真など、園から家庭に伝える必要があるものもあります。

 確かに、これらは「情報の交換」という意味で必要なものです。そして最近はやりの保育ドキュメンテーション(園での子どもたちの様子を写したスナップ写真に簡単な説明文を付けて家庭に伝える試み)によって保護者に保育の実態を知ってもらい、それによって家庭との連携を密にするというのも必要なことでしょう。そうしたドキュメンテーションによって、わが子の園での様子がわかり、子育てに前向きになれたという話もよく耳にするようになりました。

 しかし、私が保護者と保育者の関係性の問題として考えたかったのは、そうした情報交換や情報伝達という意味での「家庭との連携」のことではありません。もっと大事なことは、保護者と保育者が子どもを挟んでどのような人間関係を持つかということです。この関係性は保護者の心の動きと保育者の心の動きの絡み合いから成り立つもので、目には見えません。しかし、それが送迎場面でのちょっとした言葉のやりとりに顔を出し、またそれが保護者の側、保育者の側に心の波紋を広げ、「嬉しい」から「腹が立つ」までの大きな揺れ幅を示すことになるのです。

>②保護者の保育者への不満、保育者の保護者への不満