公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第15回①

子どもは保育園で頑張っています
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

Aちゃん(3歳児)の一日(Aちゃんの担任の先生が書いた文章から)

 今日、Aちゃんは泣きながらの登園でした。「ママがいい」とお母さんにしがみつき、お母さんもハグをしてから、後ろ髪を引かれる思いで急いで会社に向かわれましたね。あの後、Aちゃんはしばらく私の膝の上にいましたが、そのうちに気持ちが落ち着いてきて、自分のしたい遊びに移っていきました。

 午前中は仲よしのBちゃんと色水で遊びました。ヨモギの葉を擦りおろし器で擦って、とてもきれいな緑色の色水を作って私に見せてくれました。最近はいろいろ考えて工夫ができるようになりましたね。

 その後、Bちゃんがお人形さんを使ってCちゃんとお母さんごっこの遊びを始め、少し遅れてAちゃんもそこに来て、その遊びに入れてといいましたが、Bちゃんに「今、Cちゃんと遊んでいるからダメ」と断られてしまいました。

 何度か「入れて」「ダメ」を繰り返し、悲しくなったAちゃんと目が合うと、Aちゃんが私のところにきて、「ママがいい」と泣き出しました。

 いつもはAちゃんと仲よしのBちゃんが、今日はCちゃんと遊んでいて、そこに入れてもらえない悲しさや悔しさが伝わってきました。そこで私はAちゃんと一緒にBちゃんのところにいって、「Aちゃんも仲間に入れてほしいんだって」と仲介してみたのですが、やはりBちゃんはダメといいます。今日はBちゃんにもBちゃんの思いがあったようです。 そこでAちゃんに、「じゃあ、先生と一緒に絵本読もうか」と提案したら、頷いてくれたので、部屋の隅でAちゃんの好きな絵本を一緒に読み、それでAちゃんは満足してくれたようでした。

 それから食事、午睡の準備、午睡、午睡起き、おやつと続き、その間はいつもと変わらないAちゃんでしたが、おやつの後の様子を見ると、何かいつもと少し違って元気がありません。そして私のところに「ママ、いつお迎えに来る?」と聞いてきました。そういえば、お母さんは「今日はいつもより早くお迎えにくるからね」といって会社に向かわれましたよね。いつもよりお迎えが早いので待ち遠しくて、早くお迎えに来てほしかったのでしょう。そこで、「そうね、今日はもうじきお仕事終わりになるから、お母さん、大急ぎでAちゃんを迎えにこられるよ。先生と一緒に待っていようね」と伝えると、ほっとした様子で園庭に向かいました。

 早いお迎えの方がちらほら見える中、ふと見ると、Aちゃんは園庭で補助付き自転車に乗って漕いでいます。そして私のところにきて、「ママ、もう会社出た?」と聞いてきます。「そうだね、もうそろそろかな」と答え、「ママ、会社出たら電車に乗って、駅に着いたら自転車に乗ってお迎えに来るよ。Aちゃんの自転車と一緒だね」というと、「Aちゃん、自転車に乗っていると、ママも自転車に乗ってお迎えに来るんだよ。
もう電車の駅に着いたかな?」というので、「駅はまだもう少しかな」というと、また自転車を漕いで向こうへ行ってしまいました。

 しばらくして、お迎えの保護者の方にご挨拶をしているところにまたAちゃんが自転車に乗ってきて、「ママ、もう駅に着いた?」と聞くので、「そうだね、もう電車に乗ったと思うよ。もう少しだね」というと、また自転車を漕いで行ってしまい、それからしばらくすると、「ママ、もう○○駅着いた?」と途中の駅を尋ねてきます。
「Aちゃん、○○駅知ってるの?」と訊くと、「知ってるよ、ママと電車に乗ったもん」と答えて、また向こうへ行ってしまいました。

 それからまた何回か尋ねてきて、「もう少しね」といっている間にお母さんのお迎えがありました。お母さんが「お待たせー、Aちゃん元気にしてた?」と笑顔で聞くと、「うん、自転車乗ってママがお迎えに来るの、待ってたよ」と伝え、お母さんにハグしてもらって、ニコニコ顔で一緒に帰っていきました。

 これが今日のAちゃんの一日です。

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