公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第13回②

「お互いさま」の心の育ちも大事です
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

自他の区別の経験と、自他の融合の経験が大事です

 トラブルを通して自他の違いがわかり、相手にも自分とは違う思いがあることがわかるようになる一方で、集団生活の中で仲よしの子と一緒が嬉しい、一緒が楽しいという経験も増えてきます。
 砂場に水を入れてダムを作り、その水を山のトンネルを通して向こう側に流すというイメージを二人で共有して、一方が砂で作ったダムに水を溜め、他方がトンネルを掘って、水を通すなど、ワイワイいいながら楽しそうに遊んでいます。大人の目から見ると役割分担をしているように見えますが、どうやら子どものあいだでは、自分のしていることは相手もしていること、相手のしていることは自分もしていることといった、子どもならではの協働の喜びになっていることがしばしばです。

 このように、子どもは相手にも思いがあって、相手と自分は違うということがわかりかけている一方で、自他が融合したような「一緒がいい」という経験も大事な経験として積み重ねています。仲よしの子ができて、何をするのも一緒、散歩の時には必ず手をつないで、という姿が出てくるのも、「一緒がいい」という経験をしっかりしてきたからです。

 時には一人の子どもが場面を仕切って、相手を自分の思うように動かし、相手もリードする子のいう通りにするというケースもありますが、そんな「支配する─される」という関係は長続きせず、いずれは従うだけの子どものほうがおもしろくなくなって、リードする子から離れることになります。そこに子どもなりの選択が働いて、自分の思いがわかってくれそうな子を友だちに選び、その友だちのいうことは聞き入れたり、従ったりするというふうにして、友だち関係がしだいに深まっていくのです。

 こうした子どもの姿から、それぞれが別個の思いを抱いているということと、それにもかかわらず、お互いに相手の思いを共有することができるという、両立の難しい心の動きが少しずつできるようになっていることが見えてきます。ここに至るまで、強く自己主張をぶつけ合う経験、他方で、自他が融合して「一緒だね」という思いになる経験が欠かせません。

>③「お互いさま」の素地は幼児期に育まれます