公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第11回①

「褒めて育てよ」といわれていますが…
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

「褒める」ことは難しい

 メディアなどでも「褒めると育つ」とか、「褒めることが大事」とよくいわれ、お母さんたちも子育てでは褒めればよいのだと思っている人が多いと思います。保育園でも、保育者の褒める場面に出会うことはとても多いと思います。しかし、前回の「叱る」が難しかったように、「褒める」も実は難しいのです。なぜでしょうか?

 確かに、褒めれば子どもは嬉しい顔になります。そこから、褒めることは子どもとの関係をよくすることにつながると考えられることが多いのですが、ところがそこに落とし穴があります。

 まず「褒める」ことは、子どもの行為に向けられた肯定的な評価の意味をもちます。つまり、「〇〇ができた」「△△が描けた」という子どもの行為に対して、「いいのができたね」「素敵だったね」という肯定的な評価を下すのが「褒める」という大人の行為です。その肯定的な評価は、子どもにとっては自分の行為がまわりに認められたことを意味しますから、当然嬉しい気持ちになり、またやってみようという意欲につながります。そこに、「褒める」ことの大事な意味があることはいうまでもありません。

 しかし、「褒める」が子どもにとって嬉しいのはそれだけではありません。大人の「褒める」言動には、たいていは大人の嬉しい気持ち、喜びが伴われています。その正の情動が子どもを包み、それが子どもには「自分は認められている」「自分の存在が喜ばれている」というふうに感じられます。だから、なおさら嬉しいのです。

 ちょうど「叱る」に「怒り」が伴われることが多かったように、「褒める」に「喜び」が伴われることが多いので、子どもは大人の「褒める」を、その時の行為が褒められたという意味を越えて、自分の存在が認められた、自分の存在が肯定されたというふうに取るので、褒められたことをとても喜ぶのだといってもよいかもしれません。その意味での「褒める」ことは、子育てでも保育でも、もちろん大事なことです。

>②大人の願いを叶えるための「褒める」になっていませんか?