公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第10回①

子どもを「叱る」ことは難しい
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

「叱る」ことが難しいのはなぜ?

 お母さんは、子育てにおいて子どもを叱ることが難しいと感じる場面をたくさん経験していると思います。なぜ、叱ることが難しいのでしょうか?その根本には、子どもはお母さんとは異なる一個の主体だということがあります。
 主体としての子どもには、お母さんの思いとは違う思いがしばしばあり、いつもお母さんの願った通りに振る舞ってくれるわけではありません。子どもの思いとお母さんの思いが衝突する時、子どもは泣いたり、わめいたり、地団駄踏んだりして、自分の思いを通そうとします。それは、お母さんへの信頼感と自分の自己肯定感が育ち、その結果として「私は私なのだ」という思いが高まるからなのですが、しかしお母さんの立場としては、わが子のその振る舞いを許容できない場合がしばしばあります。その場合、まずは禁止や制止が向けられますが、それでもなお、わが子が自分の思いを貫こうとする時には、叱ってその行為にストップをかけることも必要になってきます。

 その時、お母さんの叱る言葉や態度は、本来はその子の負の行為(行動)に向けられていて、その子の存在を否定する意味をもっているわけではないでしょう。ところが、お母さんは子どもの負の行為を抑えるために叱ったつもりでも、子どもは、「お母さんは僕を(私を)否定した」と受けとってしまうことがほとんどです。その結果、いじけたり、隅に引っ込んだり、逆にキレたりして、気持ちを立て直せない場合がしばしば生じます。
 なぜそうなるかというと、お母さんの「叱る」がしばしばお母さんの腹立ちからくる「怒り」を伴い、それによって子どもは自分の存在が否定されたと思って逆恨みをしてしまうからです。しかしだからといって、もしもお母さんが叱ることを躊躇してしまうと、子どもは何をしてもよいのだと、したい放題になってしまいます。強く叱ると小さくしぼみ、甘くすると膨らみすぎる。ここに叱ることの難しさがあります。

>②怒りはエスカレートしやすい