育てる営みを振り返る
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)
「養護の働き」と「教育の働き」は互いに支え合う面がある
前回は、この二つの働きがせめぎ合う点を強調し、それはこの図がヤジロベエのかたちになっているところに示されていますが、この図の中間を左右の矢印が行き交っているのは、両者がせめぎ合うだけでなく、お互いに支え合い、強め合う面をもっていることも示したいからです。
前回の離乳食の例でいえば、「もうお腹がいっぱいになってきたね」と子どもの思いを受けとめながら(養護の働き)、その裏側で、でも、もう少し食べられるでしょう、もう少し食べてね、という大人の願い(教育の働き)も働いています。逆に、もう少し食べてほしいけど(教育の働き)、でも、もういらないかな(養護の働き)、という思いも働いています。
このように、二つの働きはせめぎ合う面をもちながら、お互いに支え合い、強め合う部分ももっているのです。そこに、「育てる営み」の奥の深さ、難しさがあるといってもよいのではないでしょうか。
いずれにしても、大人の側のよかれと思う一方的な思いを子どもに押しつけていくことが子どもを育てることではないことを、この図から読みとっていただければと思います。