育てる営みを振り返る
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)
育てる営みを図示してみる
育てる営みが難しくなるのは「養護の働き」と「教育の働き」がせめぎ合うからだと、前回述べました。これを図示したのが左ページの図です。
この図は、前々回の「養護の働き」と「教育の働き」の内容を取り込み、また、前回の、両者のせめぎ合いという考えを取り込んで、ヤジロベエで表したものになっています。
まず「養護の働き」は、子どもの存在を優しく温かく包む大人の気持ちがその底流をなしていることを反映し(図中・左側の最下段)、具体的には、子どもの思いを受けとめる、子どもの存在を認め、尊重し、喜ぶ姿勢が「育てる」営みに欠かせない事情を示しています。そのような思いに大人が自然になれるのは、大人がかつてはみな子どもだったからで、自分が小さかった時もこうだったに違いないと、子どもの目になったり、子どもの身になったりしてみると、そういう気持ちが自然に出てくるという事情を示したものです。
他方で、図中の右側の「教育の働き」は、大人の願いを子どもに伝えることも「育てる」営みに欠かせないということを反映し、具体的には、「これしてみない?」と優しく誘いかける、やる気がなくなってきたら、「もう少し頑張ってみよう」と頑張りを促す、行き詰ったら、「ここはこうすると上手くいくよ」と優しく教える、そして大人が困る振る舞いには禁止や制止を示し、それでも止まらない時には叱るという中身からなっています。