公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第7回①

育てることは、なぜ難しいのでしょうか

鯨岡 峻(京都大学名誉教授) 

育てることは難しい

 子どもを育てることが難しいと思わないお母さんはいないでしょう。しかし、育てることが難しいのは人間の子どもだけではなく、ペットを育てることだって、植物を育てることだって、さらには部下や学生や大学院生を育てることだって、どこか難しいところがあります。そうしてみると、「育てる」という営みそのものに難しい面が孕まれているとうことになります。その難しさはどこからきているのでしょうか。

 私の考えでは、それは「育てる者」と「育てられる者」の関係の中で、「育てる」という営みが「育てる者」の願いや意図通りにはならないことにあります。なぜそうならないかといえば、「育てられる者」の側が、「育てる者」の育てる働きを一方的に受けるだけの存在ではないからです。

 植物を育てるには水と肥料が必要ですが、では水や肥料をたくさん与えれば与えるほど植物の成長が早くなるかといえば、そうではありません。植物の状態や「様子」を見て水

遣やりや肥料遣りを加減しなければなりません。

もちろん、人間の子どもを育てることは植物を育てること以上に難しい訳ですが、それは人間の子どもが自分の意思や願いや欲求をもち、大人の育てる営みをいつも全面的に受け入れる存在ではないからです。

 お母さんが、もしも自分の思い通りに子どもを動かそうと思っていたら、そうならない現実に必ず直面するはずです。

 こうしてほしい、こうなってほしい、聞き分けてほしいという親としての願いをもちながら、子どもの「こうしたい」「こうしてほしい」「これは嫌」という思いを受けとめていくのが(受け入れるのではありません)、前回述べた「養護の働き」です。そして、その「養護の働き」が子どもに届いているのを確かめながら、大人の願いを振り向けていくのが「教育の働き」です。その兼ね合いがいつも難しいのです。

 育てる営みを「教育の働き」だけに置き換えることができないのは、小さいなりにも子どもは一個の主体として生きているからです。子どもを一個の主体として尊重しながら、

人の願いを振り向け、結果として大人の願いが実現されるかどうかは、子ども次第のところがあります。だから育てる営みは難しいのです。

 具体例を挙げて考えてみましょう。

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