公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第5回②

新しい発達の見方から見えてくるもの その(2)

鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

子育ては楽しいばかりではありません

 わが子の笑顔は可愛いし、寝顔は愛しい。日に日に成長する姿を見るのは心から嬉しい。子どもが生まれてよかったと思えることが明日の頑張りを支えてくれるのは確かです。しかし、子育てはいつもそのような幸せや喜びをもたらしてくれるわけではありません。むずかる時、大泣きする時、聞き分けてもらえない時、あるいは病気の時など、お母さんがイライラしたり、不安になったり、どうしたらよいかわからなくなったり。そんな時、「子どもなんか生まなきゃよかった」と思ったりすることは誰にも起こることです。イライラが募って、つい手を挙げたくなる時もあるかもしれません。それも、誰にも起こることです。

 そのような照る日、曇る日がいろいろある中で、プラスの経験だけでなく負の心が動くマイナスの経験も、母が母らしくなっていく上には欠かせない経験なのです。こうして子育ての経験が積み重ねられて、子どもが小学校の高学年になる頃、お母さんはようやく母らしくなり、それまでの子育てを振り返って、「これまで一生懸命子育てをしてきたけれども、考えてみると、この子によって私が育てられたのかもしれませんね」と述懐することができるようになるのです。

 「子どもによって育てられた」という言葉には、深い意味があることはいうまでもありません。子育ては単に栄養を与え、清潔にし、健康を守るという子育て行為をするだけではありません。それらにはいつも子どもを愛する気持ち、子どもを守る気持ちが気づかないうちに働いています。しかもその願わしい心の裏側では、不安や心配や思い通りにならないイライラや、様々な負の心も動いています。そういう喜怒哀楽の心を伴ったすべての経験が母を母として育てるのです。

 世の中のことは何でも思い通りになるわけではありません。その中で、心を落ち着けて子どもとともにしっかりした生活をしていこう、このように考えられるようになるところに、母としての発達があり、それは子どもを育てることを通して身についたものだから、先の述懐がうまれるのです。

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