公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第5回①

新しい発達の見方から見えてくるもの その(2)

鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

最初からお母さんだった人はいません

 前回(第4回)で見た図1を思い起こしていただきたいのですが、親を表す線分をお母さんの一生涯をあらわすとすると、お母さんがお母さんになったのは、右に進んできた線分が親になる(母になる)というところでくるりと一回転した時からです。もちろん、妊娠がわかった頃から、母になる心の準備は少しずつ進んでいたかもしれませんが、しかし、やはり子どもの誕生以後に、無我夢中の子育てを潜り抜ける中で、わが子が可愛い、わが子の命を守ってあげよう、わが子は何ものにも代えがたいという、母らしい心情が備わってきて、少しずつ母らしくなっていくのです。

 その過程がとても困難であることは、わが子が誕生後2か月経過したお母さんになりたての人が、ブログに「誰か助けて!誰か代わって!」と悲鳴を書き込む事情を見ても明らかです。誰もが人生で初めての経験です。祖父母同居なら、いろいろ教えてもらえるかもしれませんが、それができないとなると、育児書を見ながらの子育てを強いられます。近所の人ともつき合いがなければ助けてもらえません。子育て支援も、誕生間もない頃にはなかなか当てにできません。こうして、右往左往しながら子育てを開始するところが、図1では線分の「くるりと一回転」の部分に示されています。

 だからこそ、今のわが国の社会文化状況の中では、保育士の子育て支援が頼りの一つになるのです。

 職場復帰して、保育園に子どもを預けながらの生活も大変です。送り迎えを誰がするのか、帰宅後の家事を誰がどのように分担するのか、パートナーが一緒に子育ての役割を担ってくれるお母さんはいいとしても、パートナーの仕事内容によっては、それをあまり期待できず、それゆえにお母さんがなお忙しくなり、負の心が動きやすくなるということもあるかもしれません。

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