公益社団法人 全国私立保育連盟

保護者

今、保護者に届けたいメッセージ 第4回②

新しい発達の見方から見えてくるもの その(1)

鯨岡 峻(京都大学名誉教授)

この図から読みとれること保育通信12月号-図1

(1)命は世代から世代へと連鎖する

 図1はまず、前の世代から命を引き継いで誕生した個が次世代に命をバトンタッチするということの反復、つまり命が世代から世代へと連鎖していく事実を描きだしています。誰しも、自分一人の力でこの世に生まれてきた者はいません。みな両親から命を引き継がなければ(両親から命をもらわなければ)この世に生まれ出てくることはできませんでした。このことは、お母さん自身をこの図に当てはめてみれば明らかでしょう。

(2)子どもの発達とお母さんの発達は 同時進行する

 今、わが子のAちゃんは3歳で○○保育園に通っており、Aちゃんはお母さんの家族の第1子だとしましょう。ということは、図でAちゃんは3年前に生まれ、お母さん やお父さんや保育の先生に育てられて、今3歳になったということです。そしてお母さんも、3年前に初めてお母さんになり、お母さんになって3年経ち、少しずつお母さんらしくなってきたということでしょう。

 それはつまり、Aちゃんの発達とお母さんの発達が同時進行することを意味しています。子どもだけが発達するのではありません。お母さんも、出産直後の何もわからない状態から、少しずつ母らしくなって、3年経った今は、ようやく職場復帰後の生活にも慣れて、しかしたら二人目がお腹の中にいるという状態で、そのことによってAちゃんの心にさざ波が立っているかもしれません。

(3)発達は身体面や能力面にのみ現れるのではなく、心の面にも現れるこの図の内側の楕円は、子どもと親がかかわり合えば、そこには必ず喜怒哀楽の心が動くという事情を描こうとしたものです。

 Aちゃんは単に身体が大きくなり、できることが増えて大人に近づいていくのではありません。お母さんや家族との生活の中で、喜んだり、悲しんだり、泣いたり、幸せを感じたり、幸せでないと感じたり、じつに複雑極まりない喜怒哀楽の心を動かして発達しつつある一個の主体です。

 お母さんも一緒です。単に子育ての仕方を身につけ、職場での仕事をこなせるようになったというだけではありません。Aちゃんを中心にした日々の生活の中で、また職場や地域社会の難しい対人関係をくぐり抜ける中で、母として、妻として、あるいは社会の一員として、様々な喜怒哀楽の心を動かして発達しつつある一個の主体なのです。

(4)一人の人間の一生涯が発達の視野の中で捉えられる

 親の世代の線分に注目してみてください。親はみな、最初は赤ちゃんでした。それがまわりに育てられて成長し、乳児期、幼児期、学童期、青年期をへて身体面、知的能力面では一応大人になりますが、それでもまだ〈育てられる者〉の気分は抜けません。

しかし、カップルをなしてわが子が誕生すると、急に〈育てる者〉の立場に移ることになります。それが人生の大きな節目だから、右にすすんできた線分がそこでくるりと一回転するのです。

 そしてその後、わが子を育てながら〈育てる者〉として成長し、わが子が親元を巣立っていく頃、今度は自分を育ててくれた親(子どもの祖父母)が老いてきて、その介護にあたり、その介護が終わる頃、今度は自分が老いてきて、子ども世代に介護してもらい、最期には土に還かえると考えれば、誕生から死に至るまでの一生涯がおおよそ見えてくるのではないでしょうか。

*この連載では、「保護者」という言葉を「お母さん」という言葉に置きかえてすすめていきます。

第5回は1月上旬に更新予定です。