新しい発達の見方から見えてくるもの その(1)
鯨岡 峻(京都大学名誉教授)
新しい発達の見方〈育てられる者〉から〈育てる者〉へ
これまでの「発達」の考え方は、「子どもから大人へ」というように、20歳前後までの身体面や能力面の育ちをカバーするものでした。この発達の見方を少し変更して、子どもを〈育てられる者〉、大人を〈育てる者〉と置き換えてみると、発達についての考え方が大きく変わってきます。
一つは、〈育てられる者〉である子どもは、一人で育つのではなく、育てられて育つのだという当たり前のことが視野に入ってきます。またそのことによって、〈育てる者〉である親は、子どもを育てることを通して親として育つということも視野に入ってきます。さらに、子どもとその親は、「育てる─育てられる」という関係で結びついていて、その関係そのものが時間とともに変容していくということも視野に入ってきます。
要するに、子どもだけの単線的な発達という見方を越えて、〈育てられる者〉である子どもと、〈育てる者〉である親の、「育てる─ 育てられる」という関係そのものが時間とともに変容していくという、複線的な発達の見方ができるようになってくるということです。これはまた、今〈育てられる者〉である子どもがいずれは〈育てる者〉になるということが、発達の根本問題なのだということでもあります。
私はこうした新しい発達の見方を「関係発達」と呼び、「〈育てられる者〉から〈育てる者〉へ」と定式化しました。これを、図1によって説明してみます。
図1から、親の親(祖父母の世代)、親(親世代)、子ども(子ども世代)の各世代は、1世代分ずつ遅れて子どもの誕生があり、その後、相前後する世代は、「育てる─育てられる」という関係で結びつきながら、それぞれの生涯発達過程を同時進行させていっているのが見てとれます。